楽しい会話

母のいる施設に行くと、たまに楽しいことがある。他の入居者の方と会話できた時である。先日行くと新しく入ってきた方で、クレーマーっぽい女性がいらした。例えばおやつの時間、母は要介護5なので、どうしても全てゼリー状になる。その方は結構お元気なので普通のカステラだった。母のゼリーを見つけると「私もゼリーが良かった。選択できるなら、どうして前もって教えてくれないの?不親切じゃない。」と怒り始めた。私や職員の方が説明しても、聞き入れない。私はほうほうの体で逃げ帰ってきた。

しばらくして行った時、かの人はなんと母の隣に座っていた。一瞬怖気づいたが、「理解されるより理解することを」と思い、お話することにした。しかし今度は母の前に座っている方が私をじっと見て「毎日来てる」と大声をあげた。これも事実と違うので、少したじろいだが、すぐお近くにいた職員の方が「どなたが毎日いらしてるんですか?」と話しかけてくれたので、とりあえず母の隣の方とお話することにした。話してみるとその方は、母より一つだけ年下だった。とてもしっかりなさった方で、この人(母のこと)はいつも車椅子なのか、とか話はしないのか、とか母に何があったのかという様なことを聞いてくる。いい機会だと、わかってもわからなくても少し専門的な以下の会話をした。

クラスの方から頂いたお花。美しいお花と芳香が幸せな空気を作ってくれた。

クラスの方から頂いたお花。美しいお花と芳香が幸せな空気を作ってくれた。

「母は自分の家で、左側の脳に出血して倒れたんです。父が暫く気がつかなかったので、多量に出血をして当時は生きるか死ぬかでした。」「あんたは気がつかなかったの?」「毎日来てる。」「私の家は実家から一時間半以上、車で行っても電車で行ってもかかるし、でも前から『台所は温度差があるから危ない。』と言ってたんですけどね。」「毎日来てる。」「何もできないの?車椅子には座ってるわね。」「ええ。不幸なことに左脳だったので、右手が使えなくなって。。。」「ああ、脳と体は左右反対に出るんだわよね。」「よくご存知ですね。それから言語野という言語を司る所も母は左にあったので、言葉も出なくなり、こちらの言葉も理解が困難になりました。」「毎日来てる、毎日来てる。」「でもここに来てたべてるじゃない。」「ええ、お陰様でリハビリで左手で何とか食べれるようになりました。」「毎日来てる。」と合いの手が頻繁になってきたが、負けずに話す。「うちの母は四年前に倒れたのですよ。お宅様はお元気でお話できるし、羨ましいです。」と言ったら、その方は少し悪そうなお顔をなさった。本当はやさしい方なのだろう。

「毎日来てる。」と前の方の声が大きくなってきたので、もはや無視もできず、「私はここは近いので毎日来たいのですが、今週になって今日が始めてですよ。」それでも私を睨みつけるように「毎日来てる。」  と、母が顔をしかめて私に「帰れ。」と手を振った。ここが潮時かな、と思い「私は毎日は来てはいませんが、いつも母のことを心配しているので私の生霊は毎日来ているかもしれません。」と大声で返してその場を後にした。職員さん達の笑い声を背に聞きながら。

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